あひるの仔に天使の羽根を


「元々巫子たる斎王は、自然の荒ぶる神を鎮める為の存在。歴史から抹殺されようとも、各務家は形を変えながら…地元から神聖視され続けていた。13年ごとの祭で、巫子は神を背負い…住民に"食べられ"、永遠の豊穣の約束を形にする。

神との合一としての宗教的カニバリズム…人が神を食べる聖餐は、各務以外にもあり得る。基督教において贖い主イエスキリストが、最後の晩餐において弟子に食べさせたものを、自らの"血"と"肉"と表現したように…依代の身体に宿る力を引き継がせる為に"食べさせる"宗教は世界的に多くあります。

まあ私にしてみたら、イエスキリストはただの偽善者ですがね」


「グノーシスが言う処の、基督仮現論。マルコの福音書15章か?」


櫂の嘲笑を玲くんが受けて。


「ええと、磔にされる為にゴルゴダの丘まで十字架を背負って歩いたのが、通りすがりのキュレネ人のシモンという男で、彼が十字架にかけられ、逆にシモンに入れ替わったナザレのイエスが、観衆の1人となり…苦しむ本当のシモンを見て笑うっていうものだっけ。まあその冷笑は、入れ替わりを知らぬ他の奴らに向けたものかも知れないけれど」


「ご存知で。何が受難で誰が無知なのか。そもそも誰がどんな姿をしているかなどいう、身体性など曖昧なものでしかなく。見た目からは神聖さも穢れも区分けできない。何と此の世は胡乱なものなんでしょうね。

ああ、話がそれました。

刹那様は、"食べられる"運命の巫子だったという処でしたか」


――せり。巫子たるオレは、外に出られないんだよ。


「しかし13年前には、とうに長く居着いた土地を捨てているはず。だとすれば"食べられる"必要性はないはずだ。それが何故新たなる"天使の街"でも有効に…まさか、お前が!!!」


櫂の怜悧な瞳が、白皇に向く。


「はい。"彼女"の復活には、"食べる"こと…厳密に言えば、"食べる"ことにより生じる負のエネルギーが必要でしたので」


何てこと。


もし白皇が、この男が。


余計なことを画策しなければ。


普通に穏やかな人生を過ごせるようにしていてくれれば。


刹那は――!!!



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