あひるの仔に天使の羽根を
「私より"食べる"ことに執着していたのは、刹那様の方ですよ、芹霞さん。彼には土台が既に出来上がっていたのです。彼はそれを隠し押し止めていたに過ぎない。もしも貴女が現れていなければ、彼は"衝動"を発現させずに、ひっそりと幕を閉じていたでしょうね。
けしかけたのは残酷な貴女です、2週間という短い期間で、十数年の封印を解いてしまった」
――ねえ、お外は凄く大きいの。あたしと一緒に帰ろうよ。
あたしは――
刹那が凄く気に入ってしまったから。
別れたくなかったから。
だからずっと一緒にいることを願ったんだ。
あの当時はよく判らなかったけれど。
刹那はあたしの初恋だった。
溺れたあたしを助けて貰った時に、一目惚れをしたんだと思う。
ドキドキしたもの。
本当に好きだったもの。
毎日しつこいくらいに、刹那を追い回して、離れたくないと訴えた。
「刹那様に……迷いが生じてしまった。そして欲が生じてしまった」
――ねえ、せり。約束してよ?
「一心に"必要"とされることにより……抑えつけていた"異常性"を発揮してしまった。"生きてみたい"と思ってしまった。それによって、"愛""生""食"…それが1つに結びついてしまったのです」
――オレのこと、永遠に好きでいるって。
「彼は…父親を更に遡り…既に亡き各務翁の、"喰う"という衝動を色濃く受け継がれた方でした。それは各務の抱える環境と…須臾様の虐待によって"愛の渇望"と絡みついて複雑に奥底で育て上げられた。
時折覗く狂気に気づかれた久遠様は、彼を"天使"より隔離させ、須臾様の虐待を一身に受けられた。これ以上、刹那様を刺激しないように」