あひるの仔に天使の羽根を

・狭間

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大きく響いてくる、集団の靴音。


旭くんに押されるようにして、開いた石の扉の奥に足を踏み入れていたあたしは、思わず足を止めて顔を顰めた。


妙な切迫感に襲われる。


「2方向から来やがったか。

おうおう、こんな大勢で」


煌が舌打ちしてぼやく。


その顔は警戒に険しい。


あたしが目を凝らしてもその姿は見えないが、どうもあたしと由香ちゃん以外は、状況がよく認識できているらしい。


「桜は煌と2人で引き止めます。

櫂様、玲様、芹霞さんと由香さんを連れて先へお進み下さい」


桜ちゃんが一礼しながら、櫂の前に進み出た。


櫂やあたしの居る石の奥ではなく、手前側に。


「引き止めるって言ったって……逃げ場の無いこんな場所で」


あたしは慌てて、櫂を見上げた。


櫂は何かを考え込んでいる。


玲くんも何かを思案している。



「皆さん、全員でお進み下さい。

ここはぼくと月に任せてください」



沈黙を割るように、旭くんが言った。


「大丈夫。この石の扉を閉じれば、どんなことをしても開きません。

こちらから、選ばれたものが開かない限り」


そう意味ありげに笑うけれど。


「何言ってるの!?

旭くんも月ちゃんも一緒よ!?」


こんな処に残して行けるわけがない。


まして"敵"が大勢詰め掛けているのなら。


「開いたものは閉じなければ意味をなしません。

こちらから操作しない限り、石の扉は閉まりません」


依然、にっこり笑うけれど。


大きくなる靴音の数は、尋常ではない。



「俺がここに残る」



煌が固い顔をして、桜ちゃんの隣に並んだ。
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