あひるの仔に天使の羽根を
「ねえ…あの時。お姉ちゃんが背中を向けたあの時。
どうして…笑っていたの?」
――いいだろ!? "爺"と"若"って呼び合ってても!!!
――ははは。久遠は荏原が大好きなんだよ、せり。
――そういうお前だって、爺の言うことは素直に聞くだろ!?
双子が慕っていた執事。
彼らの一大事に、何故笑っていたの荏原さん。
「ねえ、あんな事態になったのは…貴方の"計画"の1つだったの? それとも想定外のことだったの?」
返事はなく。
あたしは、よろよろとしながら、久遠の元に近寄る。
「刹那も久遠も…荏原さんだけは信用していたのにね。各務の中で、荏原さんが言うことだけは、あの"オレ様"久遠でさえ従っていたのにね。
何も伝わっていなかったのかな」
詰るように睨み付けても、荏原という名の白皇は、薄く笑ったまま。
そこに"愛情"を見出すことは出来ない。
あたしは久遠に顔を向ける。
動かない久遠。
13年前と同じ顔で、だけど再会した時には感情を消していた久遠。
だけどあたしや櫂だけには、感情を見せてくれていたよね。
――オレは干渉されたくないんだ、誰にでも。誰とも話したくない。