あひるの仔に天使の羽根を

・追憶2 桜Side

 桜Side
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「久遠の屍に、刹那の意識が入っている!?」


私は、緋狭様の言葉に…思わず煌と顔を見合わせた。


「意識を…別の死んだ体に移すなど、出来るのかよ!!?」


「出来るのが判ったはずだ。2ヶ月前に」


静謐なる緋狭様の声音に、ふと思い出したのは藤姫。


緋影という特殊な血を引く彼女は、器たる肉体を乗り換えて"生きて"こられた。不可能なことではない。


真情がどうであれ、彼女に傅(かしづ)き間近でその様を見ていた彼なら、何らかの措置も講じられるはず…そうは思うけれども。


「緋狭様。元老院の権威によってその準備もされていない…突発的な事象に、肉体の乗り換え…もしくは意識の乗り換えは対応可能になるのでしょうか」


そんなに簡単なものなのだろうか。


「藤姫同様"特殊"な肉体の持ち主とはいえ、上手くいかぬだろう。"生命"はそんなに単純ではない。技術さえあれば全員が全員出来るのだとすれば、此の世に世代交代などいらぬ。人として、そう簡単にされては困る」


「では……」


「恐らくは、白皇の幻術によるもの。伊達に五皇をしているわけではない。あやつの武器は、奸計と機械による情報操作、そして過去蓄えた魔術力の"幻術"。相違した別事象を違和感なく融合させる術。それは思考操作のようなものだが、同じ五皇でさえ判っていても惑わされることがある。お前達とて、イクミと蓮が同一を見抜けなかったろう」


「あの…緋狭様は…見抜かれていたのですか?」


すると緋狭様は艶然と笑う。


「蓮とは多少面識があるものでな。まあ見た処、白皇以外の術もかかっていたようだし、お前達に害無きと判断し…放置したがな。じゃじゃ馬なあいつを扱き使い、酒の肴を持たせるのも一興だ」


そういえば。


各務の家に来た緋狭様は、イクミを見て…怪訝な顔をしていた。


緋狭様の目には…イクミは蓮と映っていたのだろうか。


だとしたら。


恐らく櫂様の元に訪れた氷皇もまた然り。


見抜けぬ私達を見て、さぞや愉快なことだったろう。



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