あひるの仔に天使の羽根を
「氷皇はさておき。なあ緋狭姉は、いつ白皇が荏原だって気づいてたんだよ。先に言っててくれれば始めから警戒したのに」
ふて腐れたような煌の問いに、
「ああ…アオの胡散臭い笑い声が聞こえるわ」
緋狭様は、表情を曇らせて黒髪を掻き上げた。
「まさか、緋狭姉…氷皇からの情報かよ。しかも…最近、とか?」
「始めから判っておったら、お前達を"約束の地(カナン)"になど行かせぬわ。アオにやられたのだ、アオに!!! お前達を使うことを見越した上で、更にシロ探しだ何だと建前上の問題解決に私を使い、それで必要な情報を揃えおって!!! 元老院なんぞなりおったら、益々人使いが荒くなったわ」
「……お互い様じゃね?」
「――何か言ったか、煌」
剣呑な目が向けられ、瞬時に馬鹿蜜柑は震え上がる。
「!!!
言ってねえ、何も言ってねえ!!!」
懲りない男だ。
褐色の瞳が、私に助けを求めている。
酷く切実だ。
捨てられた子犬のような眼差し向ける、巨大な馬鹿犬。
思い切り無視してやろうかとも思ったが、そんな時間も勿体ないなれば。
仕方が無い。
本当に、仕方が無く私は話を転換した。
「あの…緋狭様の知る白皇は、あの顔ではなかったのですか?」
正にぎりぎり。胸倉掴まれていた煌は、命拾いをしたようだ。
「私が知る顔とは違う。しかもアオ曰く、荏原の顔は幻術でもなくただの"変装(ギミック)"らしい。ある意味シロも、藤姫の気紛れに振り回される結果となっている故…藤姫が望んだにしろしていないにしろ、必要性があって身に付けた技術なんだろう。シロの由来は、五皇では最年長で、異人特有の銀髪だったからだが…元の顔の造作を言うと、そこの馬鹿犬が卑屈にならぬので言わぬ」
「は!? 俺が卑屈!!?」
多分――
かなり顔が整っているのだろう。
緋狭様、氷皇でさえこの美貌。
2ヶ月前相対した二皇も、本物であれば美形だ。
金と力がある元老院が、わざわざ醜い者を傍らに置くわけもない。