あひるの仔に天使の羽根を
 
少しだけ沈黙が流れた後――

煌が強張った顔をして言った。


「なあ…。久遠と刹那が、物質的な融合を成功させた…藤姫の時とは違う、"幻"だとしたら、現実は…真実は、久遠も刹那も存在してねえってことだろ!!? それなら!!!」


死んでいれば、芹霞さんの執着が薄れると…そう思っているのか。


芹霞さんは戻ってくると?


本当にこいつは馬鹿だ。馬鹿蜜柑だ。


私は…静かに言った。


「死んでいると判っていればこそ、芹霞さんは縛られるんだ。

罪悪という名の元に、"永遠"に…」


すると煌が、ぎりりと歯軋りをして…褐色の瞳を苛立たせた。


「俺は嫌だからな、13年前の"影"に芹霞を奪われるのは!!!

永遠を約束していようが、そんなの俺には関係ねえ!!!」


それは心を突き刺すような掠れた声で。


緋狭様は、そんな煌を切なげに見つめていて。


「緋狭様。…何故白皇は、久遠…刹那に術をかけたのでしょう。彼がしようとしていたのは、復讐と愛しい存在の復活。だとすれば…少なくとも"復讐"は、直系が家を滅ぼした時点で終わるはず。それを長らえさせる理由は…」


「久遠と刹那には、斎王としての"言霊"の秘儀を扱える。更に白皇により布陣術と金緑石の使い手として成長した。金緑石は"幻惑"の力。そして久遠は、力の転写の他に、金緑石の力を言霊によって"現実化"出来た。故に白皇に必要とされ、須臾に金緑石を奪わせ、それが理由に…"喰わせて死なせる"巫子に、刹那を据えたのだ」


刹那は、白皇に利用されただけなのか。



「"喰う""喰わせる"そのエネルギー活用を思惟すればこそ、双子の力が必要だった。

芹霞が関わった13年前のことは、白皇の想定外だったのかも知れぬ。

住人に"喰わせる"という、一見伝統に則った"儀式"や"祭"は、"巫子"なしに出来ぬが…なくとも出来る方法があるとすれば、その鍵は久遠の力。滅んだ者の有効活用だ。路線変更して、更に多大な力を手に入れようとしたのだろう」



< 1,281 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop