あひるの仔に天使の羽根を
「ではお前に問う。お前が思う真実の"生"とは何だ? 何を持って"生"とする?」
「肉体が動いて、話して、記憶して、考えられて…」
「"約束の地(カナン)"の、実は"死んでいた"住民と何の違いがある? お前は今、そうした住民を"死者"だと…"屍"だと認識しているのだろう? 第一、なぜ闇に沈んだ芹霞を"死者"とみなさぬ? その根拠は何だ?」
「あ……」
煌は言葉を詰まらせた。
「人の生死を姿で判断するな。それは生者における美醜も然り。見掛けというものは"本質"ではないのだ。
"死んだ者を生き返らせる…そこに作用しているのが幻術であろうとなかろうと、本人や周囲が"現実"だと"生きている"と思う限りは、そこには確実な"生"があるのだ。そのものを前にしては、"見掛け"の意味は持たぬ」
そう思えば――
"生"も"死"も、何と曖昧なものなのか。
対立した存在でありながら、それは永遠の命題でありながら、個人の認識1つで変わり果てるものだというのなら、私が真実生きているのか死んでいるのか、それすら怪しいということになる。
今私が"生きている"と胸を張って言えることは、周囲がそう言っているからにしか過ぎない。
現実とは、二律背反的な…背中合わせの、まるで鏡のような世界。
「じゃあ白皇の術は効力を持ち、"真実"の刹那の意識となりえてるってことか?」
煌が、橙色の髪の毛をがしがしと掻いた。
「生き返った久遠にとっては、刹那の記憶が存在し…同時に彼自身の記憶も"融合"という形で残っている。あいつがそう自覚する限り、シロの術は成功していると言えるのだろう。それは最低限の"真実"」
緋狭様の口調は、久遠から直接話を聞いたようなもので。
ああ。
私が芹霞さんを救出に赴いた時。
緋狭様は久遠と接触していたのか。