あひるの仔に天使の羽根を
 
「だがそのまま、現実世界にいれば何れ綻びが見えてくるだろう。そして"約束の地(カナン)"を維持してきたものは、お前達に破壊され…実際、真実の姿を露呈始めている」


私は、私を包む赤い球の外側の屍達を見る。


「それでも"彼ら"は恐らく…まだ良き夢の中。実際、どんな姿で何をしているのか、認識は出来ていまい」


「そう思えば…ここは楽園」


私は思わず呟いた。


「生かされている理由も知らず、真実も知らず。それでも生きているのだと、自分は存在しているのだと、自己主張が出来る世界は何て…」


私は緋狭様を見た。


「何て哀しい世界……でしょう」


それは私達が生きて居る世界とは何1つ変わらぬ世界なれど。


真実は、時に"絶望"という凶器となる。


知った方がいいのか、知らぬ方がいいのか。


それは私にもよく判らない。


「…死者には心がないと、人とは言うけれど」


その緋狭様の言葉は、酷く切ないもので。


「…あやつらは苦しんでいないと思うか?」


促された先には、陽斗と酷似した…今は味方となっている者達で。


「"真実"を悟ることは本当に幸せなのか? "真実"を知っているが故に、死にたくとも許されぬ現実を呪い、ただひたすら…解放される日々を待っているのだと…そうは思えぬか? 

蓮は生者なれど…心痛まずしてそうした"死者"を斬っていると思うか?

生も死も混在している此の地は、何と不条理な世界。

こんなものの存在を、今まで許していたなどとは」


そう悲哀に満ちた緋狭様の声が、


「――…っちッッ!!!」


突如舌打ちに変わる。



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