あひるの仔に天使の羽根を
それは人事のように、くつくつと笑う。
「私は少し背を押しただけ。各務家は本当に気持ちよく狂ってくれました。狂っていないと思い込んでいるのは本人のみ。ああ、何て滑稽な一族なんでしょう!!!」
声は段々と高らかになってきて。
「ははは、私は慈悲による幻術で、そんな皆様を蘇生させ…此処で夢を見させて差し上げたのだ。狂った愛で結ばれた家族の、偽りの…"生"を許して差し上げたのだ!!!」
白皇はそう愉快そうに笑うけれど。
その目の輝きは、まともじゃない。
「あんたは神じゃないわ!!! ただの幻術如きでいい気にならないで!!! 皆の真意を無視して、自己満足で傲慢な所業に酔いしれる時点で、あんただって十分"狂人"よ!!!」
あたしは、久遠の手を掴みながら睨み付ける。
「私が?」
それは慮外とでも言いたげに。
正常と狂人の区分けは曖昧だと思う。
その判断の基準は、何に頼っていいか判らない。
だけど、少なくとも目の前のこの男は。
"正常"だと信じて止まない…それこそが異常で。
周りが全て異常だというのなら。
違うと言い張る自分こそが、異端の存在だと判っていない。
常識に弾かれたものが異常だというのなら。
"異端者"は"異常者"だとは考えないのだろうか。
異常者が願う"永遠"なんて儚いものかも知れないけれど、だからこそ、それを無性に欲するのは、自分が狂っている故ではと懐疑的にはならないのだろうか。
「あんたもね、"永遠"に取り憑かれた狂人よ。異常者なら異常者らしく、もうこれ以上の正常者を巻き込むのは止めようよ!!!」
"永遠"に狂おしく取り憑かれている。
それはあたしも同じ事。
「自分だけ"正常"ぶらないでよッッッ!! もう…いい加減、あんたの"永遠の恋愛成就"という私情に、多くの人達を巻き込まないで!!!
偽りで固めた世界を壊して、ねえ…真実を、1つに還そうよ」