あひるの仔に天使の羽根を
その速さは尋常ではなく。
飛び出したばかりの部屋に、瞬時にして全員が揃い。
それでも意固地になって1人飛び出ようとする煌は、
「どわっ!!」
弾かれたように、再び石の扉の奥になだれ込んできた。
「きゃははははは」
月ちゃんが、煌を突き飛ばしたらしい。
人声がはっきり聞こえる。
追っ手が追いついたのか。
由香ちゃんが手招き、泣いて叫んだ。
「月~ッッ!!!」
「きゃはははは。遊んでくれてありがとう、お姉ちゃん」
にっこり笑う顔は天使の顔で。
月ちゃんは大勢の人波に呑まれ、見えなくなった。
怒号と歓声と咆哮だけが膨れる最中、
「スケスケ、ありがとう~ッ!!!」
微かに――
そんな声も遠くから聞こえて。
外に飛び出そうとした皆を遮る様に、
「月を可愛がってくれてありがとうございました」
旭くんが頭を下げた。
「旭……来いッ!!」
櫂の声に、静かに首を横に振る。
「俺達を、信じられないのか?」
櫂の眼差しは真剣で。
「信じようと思うからこそ、行きません」
その顔は固い決意に満ちていて。
「代わりにえらばれたのがあなたなら、
僕は護らなくちゃ。
全ては――約束の内に」
そして同時に石が轟音をたてはじめる。
「あ、旭くん、ちょっと待って!!?」
「せりかちゃん」
旭くんの呼び声に、あたしは動きを止めた。