あひるの仔に天使の羽根を


判ったよ、久遠。




苦しかったんだね。


辛かったんだね。


終わりにしたいんだね。




最後まで憎まれ口ばかり利いて、


だけどあたしを巻き込まないようにしたんだね。



だけど遅いよ。



もう1人にしないから。



あたしが存在する理由は――


約束を果たすことでしょう?




「せり!!! 何を!!!」



追いかけた久遠は、宙で目を見開いた。


動揺する久遠を見るのは、きっとこれが始めで最後。


なんとも愉快な気もするけれど。



「約束。"永遠"に行こう?」



あたしの微笑みに、久遠は――



「馬鹿なせり。怖いの嫌いな癖に」



儚げに微笑んだ。



その影に、13年前の刹那の姿が重なって。



ああ、あたしはやっと還れたんだなって思った。



本当に勝手かもしれないけれど。


あたしはあたしの在り方にケジメをつけれたと思う。



あたしだって、純粋な生者ではない。


だとしたら、死者の還る先は1つしかないのだから。



「出来るだけ、痛くないのがいいけれど」


ちらりと見えたのは、先客を餌に集まる"約束の地(カナン)"の住人。


どんな状態なのか、想像したくない。


だけど。


他人を犠牲にして生きてきたあたしは、

多くの命の糧となるのが相応しい。


夢幻の命同士、共に朽ち果てるのもまた一興。



「目を瞑る時間は刹那。

後は――久遠に続くから」



そう言ってあたしを抱き締め、瞼に指を乗せ目を閉じさせたのは


――久遠か、刹那か。



「せり…オレは……」



一緒に。



何処までも一緒に。



今こそ、13年前の約束を。


13年前の果てに、"約束の地(カナン)"があるというのなら、

あたしは"約束の地(カナン)"の礎となり、此の地で"永遠"と成り果てる。



どこまでも、刹那と久遠と共に。



還っていく――


――13年前に。


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