あひるの仔に天使の羽根を
そんな時。
がくんとあたしの左手が引かれて、あたしは宙に止まる。
右手は、垂れ下がる久遠の手をしっかりと掴み。
塔を見上げれば――
「駄目だよ、逝かせないよ」
神楽から半身を乗り出した――
ああ――
ええと――
「お兄ちゃん、だあれ?」
こげ茶色の髪をした、綺麗なお兄ちゃんがいて。
「え?」
お兄ちゃんは、驚いた顔を見せた。
何をしているんだろう。
あ、遊んでくれているのかな?
足元はぶらぶら、久遠もぶらぶら。
ふふふ、楽しいかもしれない。
そうだ、お名前聞かなきゃ。
「はじめまして!!! あたしはね、"かんざきせりか"っていうの。お兄ちゃんのお名前は?」
お姉ちゃんが言ってたもの。見知らぬ人とは遊んじゃ駄目だって。
だったら、見知ればいいんだものね。
あたしったら頭いい!!
掴まれた手に力入れられて痛いと思ってたら、何かがぽたぽた落ちてきた。
「お兄ちゃん?」
お兄ちゃんが泣いていた。
綺麗な涙をあたしの手に零して、そして笑った。
「僕はね…"しどう…れい"って言うんだ。
はじめ…まして。
よろしく…ね、せりか…ちゃん」
優しい感じのお兄ちゃんは、涙声だった。