あひるの仔に天使の羽根を
 

その時、放たれた集団の声。


「選ぶがいい、お前かそいつか!!」


それは憎悪と残忍さに満ちた、悪魔のように。


あたしは慌てて閉まる扉を必死に手をかけるけど、効果はなく。


皆の手が伸び、あたしを補助するように扉を掴んだのに、扉は平然と動きをやめず。


よからぬ予感だけに胸は苛み、


「旭くん、こっち来てッッ!!」


しかしあたし達の叫びは喧騒にかき消され。



もう誰の声も届かない。


もう誰の声も聞こえない。



無情に消えていく――。


扉が本当に閉まるその寸前で。


歓喜の咆哮の中、群集に高く持ち上げられたのはどちらか。


ずたずたに引き裂かれた服。


髪は削がれ、血に染まった無残な姿。


無理やり捕まれ、広げられた小さな両手両足。


それはまるで十字架にかけられた、


贖い主イエス・キリストのように。


毅然たるその物腰は。


旭くん――だろうか。



その時、より一層の歓声が沸き。



その胸に――




「いやああああああ」




沢山の刃物が突き刺ささり――




扉は完全に閉まった。




叩いても何をしても石の扉は開くことは無く。



「やめろ、芹霞。爪がはがれる」



櫂から止められても、あたしも由香ちゃんも石に手を叩きつけ、泣き続けた。


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