あひるの仔に天使の羽根を


俺はしゃがみ込んで、頬を摩る煌に声をかけた。


「お手柄だな、煌」


上げられた顔。頬が腫れている。


「期待以上の活躍だ」


すると、褐色の瞳が不満げに細められた。


「達成感がねえのは何故だろう。つーかさ、何で今回俺こんなのばっか!!? 俺ってやられキャラ!!? そんなに弄られキャラ!!?」


「気にするな。お前はお前だ」


俺は、拗ねたように口を尖らす煌の肩を叩いた。


煌だって。


芹霞との思い出があるんだ。


俺ばかりが、芹霞との過去を持っているわけではない。


ああ、煌と芹霞は…

あの紅皇に尻を叩かれて過ごしてきたのか。


緋狭さんのことだ。怒ったら、凄まじく…容赦ないに違いない。


未だ緋狭さんを恐れる煌を思えば、煌は芹霞以上の被害に遭ってきたのだろう。


煌だけが持ちえる、そうした芹霞との特別な過去。


少しだけ妬ける気もするが、俺も煌や芹霞と同じ目に遭っていたらと思えば…何だか、煌が不憫に思えて仕方がなく、俺はこの立ち位置でよかったと思ってしまった。


芹霞は何も言わず、まだダメージを堪えているようで。


久遠はそんな芹霞の横に立つと――

俺を、睨み付けるように見た。


まるで血の様な赤い瞳の色。


気の昂ぶり…それは敵意。


着物や簪(かんざし)を打ち捨て、俺と対峙するのは"ただ"の各務久遠。


ただの…1人の男。


"聖痕(スティグマ)の巫子"の立場を捨てて、此の地で"生かされた"役割を放棄してまで。


そこまで俺が憎いのか、久遠。


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