あひるの仔に天使の羽根を
 
パチパチパチ。


俺が白皇に向き直ると同時に、その本人からわざとらしいくらいゆっくりとした、拍手の音が聞こえた。


「これはこれは。さすがは紫堂の忠犬。およそ人間が考え付かぬ奇抜な方法で、芹霞さんをお戻しになられるとは。予定では…あのまま久遠様と共に"約束の地(カナン)"に貢献して頂く予定でしたが…」


白皇は、口元歪めて続ける。



「久遠様。過程が狂ったとしても、結果は同じことです。ふふふ。思った以上の力を集めすぎてしまったようで…最早、騒ぎ狂うあやつらを抑えるのは…"禁断の果実"となる巫子、各務と天使の血を引く久遠様しかおりますまい」


塔の外に出た時の、狂騒は。


"約束の地(カナン)"の住人が、餌を求める…まるで"本能"のようで。


落下した"餌"を、夥(おびただ)しく取り囲んで貪り食う地獄図。


だからこそ余計に。


他の男の為に…久遠の為に、"その結果"を決意した芹霞を、俺はどうしても離すことは出来なくて。


あの狂騒は、喜悦の雄叫び。


塔に向かって手を伸ばしていた光景を思い返せば、元々塔から落とされるものは、至上の美味だと認識できていたということか。


だとすれば。


未だ収まらぬ騒ぎを鎮められるのは、本来の"禁断の果実"たる資格を持つ…久遠の血肉が必要なのだと――そう言うか。


久遠は何も答えない。


「順序が狂いましたが、それはそれ。蠱毒の効果が"最高潮"のうちに、貴方達もその1つとなって頂きましょうか。私が出張るのはある意味邪道。しかし中々進まぬ焦れたゲームのルールが改定されまして。"お許し"が出たのですよ。

さて。生き残られる方は、どなたにしますか?」


残忍な…その笑いこそが、この白皇の本性なのか。


慇懃な物腰を貫くけれど、結局この男も"破壊衝動"に囚われた狂人だ。


何と――哀れなことだろう。


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