あひるの仔に天使の羽根を
 

完全に閉じられた石の扉。


全ての喧騒が遮断され、全ての声が虚無に返った。


扉の向こう側の景色がどうなっているのか、


想像することは出来ない。


想像――したくない。



重い沈黙が流れ、誰もがその場から動けなかった。


暗闇。


櫂が壁につけた照明だけが、ぼんやりとした灯りを照らしている。


由香ちゃんの啜り泣き。


煌は後ろを向いて蹲ったまま。


桜ちゃんは俯き、玲くんは片手で顔を覆い、櫂は天井を見上げて。



あたしは――


これ以上の涙を押し殺した。



泣けない。


悲しくも泣けない。


泣きたい。


だけど泣いても何も変わらない。


泣いて還るものならば、


2ヶ月前にとっくに泣き尽くしている。


――ぎゃははははは。


こういう時、陽斗の笑い声が聞きたい。


馬鹿にしたようなあの笑い声で、


全てが冗談、茶番だったのだと笑い飛ばして貰えたのなら。



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