あひるの仔に天使の羽根を
「あはははは~ 俺達すらシロの手の内だと、すご~く見くびられているよ、どうしようか、アカ」
やがて聞こえる胡散臭い声。
その――
底冷えしそうな藍色の瞳が一瞬…向いた先。
秒にも見たぬ僅かな時間だけど、何故か無性に気になって。
「判っていて聞くな、アオ。全ては打ち合わせ通りだろう」
やれやれと言った感じで緋狭姉が溜息をついて、
「坊、玲。お前達…紫堂の力は、少しでも回復しているな?」
そう――
ゆらりと櫂達に近付いた時…あたしは気づいた。
「ふむ。坊も玲も…40%まで回復しているのなら、上出来だ。煌。お前…金翅鳥(ガルーダ)を出せるな?」
久遠が――
部屋の片隅で何かをしていることに。
その口元が小刻みに何を唱え続けていたことに。
「桜はその間、あの呆けた参加者達を縛り上げ、意識を奪え。下手に騒がれたり"汚染"されれば厄介だ」
あたしは何の力も持たない平々凡々な庶民の女だけれど。
何回か目にすれば、それが何なのかは見当くらい付く。
"布陣術"と"言霊"
そのことに唯一気づいている蒼生ちゃんとお姉ちゃんは。
特に緋狭姉は、櫂達に説明をするという形でこうして移動して、櫂達や白皇から、久遠が隠れて見えないような位置に立っているんだ。
「輝くトラペゾヘドロン…元々の黒い壁時は力を吸収する働きがある。蠱毒効果と紫堂の力を吸い込み力が充足すれば、真紅に反転し……それを閉じ込め外部に漏らさないよう、より強固な…ニトリクスの鏡に覆われる仕掛けか。ニトリクスの鏡は、紫堂の力を弾くものだが、坊達が10個の魔方陣破壊したことにより、その効力は弱まり…最強の盾という役割のみ固執している、か」
久遠は何をしようとしているの?
ねえ緋狭姉。
貴女は、久遠の行動をどう受け取っているの?