あひるの仔に天使の羽根を
「ひいいっっ!!?」
思わず頭を抱えて縮こまったあたし。
重い音を響かせて、あたしの位置より少しずれた処に、瓦礫と共に上から落下してきたのは――
「水槽!!?」
壊れずに着地出来たのは、蒼生ちゃんが自慢げに放り込んだ屍がクッションになったからのようで。
この位置に山積みしたのが、偶然に思えないのが不思議だ。
水槽からは長細いチューブが、無数に上に向かって伸び拡がっていて、それは上階の何処かと繋がっているようだ。
そんな時、目に入った橙色。
出した綺麗な鳥がチューブに止まると、突然土下座を始めた。
何してるんだろう?
「ほう? 蠱毒効果のある"天使"の養分を…直接、吸収した壁から送り込んでいるのか。塔自体が…"彼女"を生かす成分か」
緋狭姉は静かにそう言いながら、煌の背中を足で踏みつけ、1回だけ口笛を吹いた。すると綺麗な鳥は…緋狭姉の指先で翼を畳んで炎になって消える。
凄いや、緋狭姉。
煌の鳥まで手懐けてるなんて。
いつもの緋狭姉なら、焼き鳥にして勝手に食べてしまいそうなのに。
「ハア…あの、クソ金翅鳥(ガルーダ)、ホント主人に似てへそ曲がりで根性悪い…」
…あ、煌が…緋狭姉に蹴られて空を飛んだ。
「あははは~。交代制じゃなくて手間省けたね、シロ。大変そうだったもんね、皆で次々に"家畜"を取替えてさ。この塔に張り巡らされた電気系統が、蠱毒によって自家発電的に動き出したから、自動化成功したんだね。おめでとう~。上階でせっせと働いた皆は、今は水槽の下。縁の下の力持ち。何て忠臣なんだろうね~、あはははは。
だけど。このまま行けば貧乏街道まっしぐら。金の尽きが愛の尽き? あはははは~」
そして、蒼生ちゃんは酷薄な笑いを顔に浮かべて。
「これがお前と各務翁を狂わせた…"天使"か」
向けられた藍色の瞳の先。
「!!!」
水槽の中には――
何かが居た。