あひるの仔に天使の羽根を
 

ゆらゆらと、水に漂う姿はまるで魚のようで。


だけど魚じゃない。


思わず近付いて魅入ったあたし。


何だろう?


人間?


人間の筈がない。


四肢がないもの。


だけどその顔は、人間のようで。


――これがお前と各務翁を狂わせた…"天使"か。


"天使"?


整いすぎた…透き通ったような顔に、きらきらと光る黒い瞳。


波打つ黒い髪の毛は、角度によっては金色にも思えて。


あたしと目を合わせると、それはにっこり微笑んだ気がした。


その笑みがとても綺麗で美しくて。


口からぷくぷくと小さな水泡。


生きているんだ!!!



何だか――

感激して涙が出てきた。



欲しい。


この水槽の中のものが欲しい――





「芹霞、駄目だ!!!」




あたしの手を引いたのは玲くんで。



「あれはもはや人間でも、"天使"でもない。

人を狂わせるだけの…魔性の存在だ」



ゆらゆら、ゆらゆら。


身をくねらせて、"ほう"と誘惑のように口を動かして笑いかけるその姿は、あたしには…"魔性"という言葉は思いつかない。



欲しい。


ゆらゆら、ゆらゆら。


これが欲しい。



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