あひるの仔に天使の羽根を
「"彼女"を奪おうとしても無駄だ!!!
愛する"彼女"は、私だけを想って再生するのだ!!!
この鏡面は、電気が通る特殊加工。私だけを慕うあの人工知能と"彼女"は融合するのだ!!! まだ今なら間に合う!!!」
その声に呼応したかのように、壁の白銀色に――
赤い――
夥(おびただ)しい数の赤い線が現れて、忙しく動き出した。
狂ったように――。
「機械は、緋狭姉がぶっ壊したはずだぞ!!?」
煌が、偃月刀を白皇に突きつけて言う。
「かつて東京における停電で痛い思いをした私が。何も策を講じていないと思うか。緊急避難用の自動バックアップぐらい用意してるわ!!!」
自慢なのか、ただの激高なのか。
それとは対照的に穏やかに響いたのは――
「…それがこの塔に流れてきているということ? 鏡の中を伝わって」
玲くんの声。
「ふうん。じゃあ戴こうかな、その電力」
端麗な顔は、意地悪く歪んだ。
「丁度僕の月長石…備蓄がからっからでさ。ありがとうね」
いつの間にやら、玲くんの手の中にある月長石。
壁から…赤色が抜け出るようにして、代って…青光となり、白い石に吸い込まれていく。
「やめろ、やめろ、やめろ!!!
"彼女"の想いを僅かなりとも盗み取るな!!!
私だけのものだ!!!」
今までの…"荏原さん"は何処にもいない。
ああ――
白皇って、こんなに感情の激しい人だったのか。
此処まで――
"彼女"に狂わされていたのか。