あひるの仔に天使の羽根を
「小娘に何が出来る!!!」
「彼女に書き換える力が無くても、僕が作った…自宅のメインコンピュータにはそれが出来るんだよ?」
にっこり。
それは残忍なくらい、綺麗な笑みで。
「"約束の地(カナン)"を覆う外殻は、外界との通信を遮断する働きがある!!! 磁場を狂わす働きが!!!」
「重力子? 確かに外界との通信は困難だ。だけどさ、その想定自体…外部からの侵入を弾く為のものだろ? 此の地からの漏洩に対しては、セキュリティが甘い。辛抱強く解除していけば、外に抜け出る穴(バグ)は見つかる。だからこそ僕は衛星を動かせた訳なんだけれど。…ねえ?」
玲くんは、可愛らしく首を傾げて聞いた。
「僕が…魔方陣破壊だけの為に、衛星を動かしたと思ってる?」
「!!!」
「レーザーだから貫けた"約束の地(カナン)"の外殻。穴が開いた時点で…重力子の影響はなくなったんだよ。つまりこちらから外部へのアクセスは可能だ。
"約束の地(カナン)"から、尻尾を掴ませまいと逃げる人工知能の残滓を、捕縛(ハック)するために潜ませてた…元は調査用暫定プログラムが、バックアップという大きな餌を捕まえた。その容量が大きいから、逃げきられる前に、由香ちゃんはあの家の…もぬけの殻となった機械を操り、家のメインコンピュータに強制送還して"身柄"を拘束してくれている」
「あははははは」
笑いだしたのは氷皇で。
「人を侮るからこそそんな目に遭う。お前が設計したものは崩れたのだ。教祖たる人工知能が、健気にもお前の為にと荒れた"約束の地(カナン)"に秩序を構築し、己の代理として選んで司狼に情報を流しすぎたから、アカにも利用される」
蒼生ちゃんの笑いは…酷薄な氷皇のもの。
「あの娘、バックアップから…人工知能の"意思"は返したらしいな。
さあ…どんな"想い"が、この"屍"と融合するだろうな!!!」
「な!!!」
歯軋りをして睨み付ける白皇が、光を放つ。
「元老院に、手を上げるか…白皇」
氷皇は長い足を上げて、
「身の程知らずめが」
白皇が防御の姿勢をとるよりも早く、
その脇腹を蹴り上げ、膝をつかせた。