あひるの仔に天使の羽根を


「な!!!!!」



白皇は、"彼女"を乱暴に打ち捨てた。


そこに愛の片鱗は微塵もなく。


熱の籠もっていた眼差しは、温度が下がりすぎている。



「私の、私の"彼女"を何処にやった、久遠!!!!」



それは憎悪。


それは憤怒。


注がれた一点には、久遠が施した布陣。


「お前は…私の力を利用して、術をかけたというのか!!!」


「オレは、術をかけたわけじゃない。かけていた術を解いただけだ」



久遠は言った。



「オレが、金緑石の"幻"を扱えるようになった時、お前は言った。

自分に仇為す者に術をかけ続けて、腕を磨けと。

だから――"彼女"に力を使ったよ」


その瞳は、瑠璃色に…紅紫色に、移ろいで。


「そうしたら、いつまでも"美しく"…お前を狂わせて行った。

言霊で現実化する必要も無いくらいに」



「お前は…私を"仇為す者"だと!!?」


「"愛"を得る為に…狂いすぎたんだよ。

お前だけじゃない。誰も彼もが……」



その時、部屋に入る何かの足音がして。



旭、蓮、司狼。


後方には、榊と遠坂が控えていて。



「刹那様!!!」


旭は、久遠に抱きついた。



「真実の姿を知らずして、"永遠"に生き続けるのは、素晴らしいことなのか? 未来も夢も希望も…偽りでしかないというのに」


その言葉は、切ないほど震えていて。



「苦しかったんだよ、"約束の地(カナン)"の住人は。

生き続ける事が…幸福ではない。


何が――"約束の地(カナン)"、


楽園だというんだ」



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