あひるの仔に天使の羽根を
 
「だから、あたしは泣きたくは……」


噛み締めた下唇を、櫂の長い指がなぞる。


「なあ。

血が出る程、俺を拒むなよ」


そう切なげに声を出すと、


「!!!」


唇を噛んでいる歯ごと、舐められた。


吃驚して思わず口を緩めれば、


「消毒」


下唇を更に舐められ、


「!!?」


逆に噛み付くように唇を押し付けられた。


櫂は。


櫂で。


櫂なのに。


頭の中は櫂でいっぱいで。


手でどんどん叩いて抗ってもその手は押さえつけられ、


身体を後方に逸らして逃れようとすれば、覆いかぶさるように攻められる。


ちらりと目に入る、紅に染まった櫂の首筋に、鎖骨に。


誘うような櫂の艶めかしさに、あたしの力は次第に失せて。


おかしな恍惚感に、心臓の跳ねが止まらない。


長い睫を伏せた、絶妙な美しさを誇る櫂の顔は。


ああ、櫂はここまで艶っぽい顔が出来るんだ。


背筋がぞくぞくした。


それはまるで禁忌のような興奮(スリル)で。


「……ふ。目を開けてられるとは、俺も随分と舐められたものだな」


掠れきった声で、耳元で囁かれた。


「その余裕

――崩してやるよ」


甘さを滲ませ熱く潤んだ櫂の目が、怖いくらいに真剣のものとなり、


再び唇を塞がれた。


それは更に荒々しいもので。


抗すべきなのに、心地よいシトラスの香りに溺れそうになる。


溺れたい気さえしてくる。


角度を変えて攻めてくる唇。


激しすぎて、受け止めきれない。


そして――


本能的に閉じた唇は、櫂の舌で無理矢理抉じ開けられ、


「――ッ!!?」


熱い櫂の舌がねじ込まれた。




< 135 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop