あひるの仔に天使の羽根を


「13年経っても…

残酷だね、せりは」



久遠はそう…自嘲気に言った。



「じゃあ――…

オレ達に生きろというのなら。

今度こそ約束しろよ。


絶対的で、無効に出来ない約束。


13年前の――


"永遠"を忘れるって」



「――…え?」



「オレはね、せりが嫌いなんだ。嫌いな女に"永遠"を縛られたくないし、更に"責任"と"罪悪"で、我が物顔で傍にいられても迷惑この上ないし、腹立たしいだけだ。

オレと刹那は…君との出会いで狂わされた。だからもう…関わり合いたくない。"生"を…選ぶのなら、君の居ない"生"がいい」


突き刺すような…研ぎ澄まされた言葉の刃に、芹霞の息を呑む音が聞こえた。


そして久遠は――

芹霞から視線を外し、後方に立つ俺を見た。


整いすぎて、気味悪く思える…妖麗な顔。

何処までも表情が壊れ、何も無い虚無の顔。


妖香を漂わせて誘惑し、それでいて何者をも拒む…艶美な肉体。


俗っぽくて崇高な――

流されているようで、決して流されていない…確りとした存在感。


燃えるように輝く紅紫の瞳。

凍てつくように輝く瑠璃色の瞳。


どちらが表層に出る、"意識"なのか。


何処までも相反するものを抱えながら。

何処までも"矛盾"を抱えながら。



容赦ない"言霊"を繰り出す男は、

己が"生"を強く叫び続ける。


それを"非情"だとか、"無様"だとか。


そんな陳腐な言葉で片付けられない俺は、

その中に、本当の"あいつ"の姿を見出した。


あいつの"言葉"の力を受け取った。



ああ――


この男は。



< 1,353 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop