あひるの仔に天使の羽根を
「帰ろうぜ芹霞」
煌が芹霞の前でしゃがみ込んで、にっと笑った。
「お前居なくなったら、あの家どうなるよ。帰るぞ、俺達の家に」
震える煌の声。
精一杯明るく努めて、戻りやすくしているのか。
短気な煌の、最大限の譲歩。
「お前居ないと、寂しいだろう…俺」
力尽くではなく、芹霞の気持ちを待っている。
そんな煌を…
「ごめん、煌」
煌の唇が堅く結ばれたのが判った。
歪み、滲んでいく…橙色。
俺までも…輪郭がブレていく錯覚。
煌の率直な感情が流れ込んでくる。
壊れ――そうだ。
「芹霞さん……」
桜が横に立った。
「帰りましょう」
傍観者に徹するとばかり思っていた桜が、
あれ程芹霞を苦手として距離を置いていた桜が。
「芹霞さんの住むべき処は、私達の居る場所です」