あひるの仔に天使の羽根を
もう最後だと言っているのに。
何事もなかったかのように。
あたしを見ようともしなかった。
「待てよ、櫂!!!」
食ってかかったのは煌で。
「何を平然としてるんだよ!!! 芹霞が残るって言ってるんだぞ!!?」
胸倉掴んでそう叫べば、
「あいつが、"いらない"って言ったんだ。拒まれても、他の男と"永遠"を縋るような女の心、どうして俺が変えられる?
無理に連れても毎日泣かれるのが関の山。
あいつの頑固さは、同じ屋根の下で暮らしたお前は判っているはずだ。
だったら、あいつの幸せ考えて、俺達が去るのが…せめてもの"情"だろう」
「綺麗事抜かすな、櫂!!!」
「煌。俺達は負けたんだよ、久遠…刹那に。
これ以上…惨めな姿を晒すな。引き際くらい潔く行きたい」
櫂の言葉が終わった途端、笑いだしたのは玲くんで。
「判ったよ、櫂…よく判った。
煌、諦めろ。芹霞のことは…忘れよう」
「は!!? 何言ってるんだ、玲…いててて、何すんだ、桜!!!」
「櫂様、玲様に逆らうな、てめえ!!!」
桜ちゃんの回し蹴りが、煌の首に決まっていて。
「何だよ、何だよ!!! お前等!!!!」
褐色の瞳は潤みながら、皆を睨み付けていて。
櫂の横には玲くん。
玲くんの横には桜ちゃん。
桜ちゃんの足下には煌。
そして煌を、玲くんが引き摺って。
彼らは出入り口に赴いて。
「じゃあ達者でな、芹霞。
あ…神崎、って呼んだ方がいいかな。
もう…幼馴染として出会うこともないんだろうし」
あたしの中で、何かが爆ぜる…音がした。