あひるの仔に天使の羽根を
 

口元だけで笑った櫂。


その顔だけを最後に見せて…


立ち去ろうとしていて。



あたしは――…




「待ちなさいよ、櫂!!!」





塔が震えるくらい大きな声で櫂の名を呼び、




「何で…何でそんなに簡単に、


あたしを置いて帰ろうとする!!?


あたしへの気持ちは、そんな程度だったの!!?」



櫂の元に走り、怒りまかせに…その胸倉に頭突きをした。



揺らぎもしない、強靱な肉体に。



益々、怒りは増大して。



「どうしてあんたはそんなにあっさりしてるのよ。

もう会えない、会わないって言ってる時に、どうしてそんなに平然としてるのよ!!!?

普通は!!! 止めるでしょう、皆みたいに普通は!!!」



何を言っているのか判らない。

何を言いたいのか判らない。


「俺は所詮、久遠…刹那の身代わり。お前が果たせなかった"永遠"を真実にしようとしたための"擬態"を向けられただけ。そんな俺に、今のお前にどんな効力がある? 俺を"いらない"って切り捨てたのはお前なのに」


ぐさりときて、ずきずき痛む心臓。


あたしからそらそうとするその目が気に入らなくて。


だからあたしは櫂の胸倉掴んで身を屈ませ、片手で櫂の顎を掴み、端正な顔を真っ正面に固定させた。


整いすぎたその顔が、こちらに向けられただけで心がざわめいたけれど、それが何故かは今、考えるべき時ではない。


あたしは嫌なんだ。


「あんたにとって、あたしはそんな程度!!? あたしがいらないって言えば、あっさり身を引けるちっぽけな存在だったの!!?」


櫂が、あたしに"執着"を捨てることに。



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