あひるの仔に天使の羽根を
ああ――。
――芹霞ちゃあああん。
心も――。
俺のあるべき姿へと、
制約の無いありのままのものへと還ろうとする。
芹霞しか見えない本当の俺に。
芹霞を泣いて求める子供の俺に。
耳に響く吐息が、喘ぎが、粘着音が。
どちらのものとも判断できない、蜜な空気に。
俺は流され言ってしまいそうになる。
お前が好きだと。
俺だけのものになれと。
――約束します、父上。
親父の制約が緩和された事態になったとはいえ、
約束は約束だと親父に笑われた。
そう、ここ2ヶ月間の俺の働きを、
珍しく褒めた親父に、俺は便乗して。
――あの約束は無効に。
しかし現実は上手くいかず。
――甘ったれるな。
無慈悲なまでに冷たい言葉。
――何がそんなに難しい?お前から手出しせずに、小娘を振り向かせることが。それすら出来ぬのなら、お前に紫堂を任せるわけにはいかんな。紫堂の後ろ盾なくして、お前はどこまであの小娘の優位に立てる?
芹霞を護った血染め石をなくした今、
俺の強みは――
なかった。