あひるの仔に天使の羽根を
「ねえ煌。久遠は…手練れだ。
お前はどちらが勝つと思う?」
「勿論――俺達の主だろうさ」
朗らかに、煌は言い切って。
「そうだよね。僕達は櫂に託したんだ。僕達の分まで完勝してくれないとね。まあ…へばっても、僕が叩き起こすけどね。ふふふ。"追いかけられる"味をしめて、それで逆転狙うとはね。ふふふふ。
何処までも遠慮無く派手に見せつけやがって」
OH玲くん…。
端麗なお顔が、なんてえげつない…。
「ん? 君は心配しなくていいからね? あいつは貪欲過ぎて、"更にもう1歩"を焦りすぎて、欲を出しすぎて…地雷を踏んで自爆する。芹霞限定。それだけが弱点だからね?」
「んんん?」
「まあ…そこが可愛いんだけれどね」
意味は判らないが…玲くんの顔は慈愛に溢れている。
玲くんは、本当に櫂が好きなんだろうなって思った。
"玲くん"を解放できるのは、櫂なのだろうか。
解放された"玲くん"は、遠くに行ってしまうんだろうか。
そう思ったら…何だか寂しくて堪らなくて、あたしは玲くんの服をぎゅっと握りしめた。…すぐ煌に引き剥がされたけど。
「ねえ芹霞。君は、どっちに勝って貰いたい?」
鳶色の髪をさらりと零し、玲くんは微笑む。
指を差して促したのは、上着を脱いで臨戦態勢に入った2人。
「ど、どっちって…闘って欲しくない、んだけれど」
あたしは引き攣って笑った。
だけど、あたしは思っている。
きっと…勝つのは――
「君が思い浮かぶ顔こそが、君にとっての"真実"さ。
君の還るべき場所なんだよ?」
そう笑った玲くんが、突然手を叩けば――
それを合図に2人はぶつかり合った。