あひるの仔に天使の羽根を
 
「…櫂の位置に、僕が居たかったな…」


玲くんの呟きは小さすぎて聞き取れなかった。


「お前、本当にいい身分だよな」


煌がぶすっとした顔で言った。


「へ? 庶民が?」


「誰が、肩書きを言ってるんだよ!!!

お前を取り合ってるんだぞ、あいつら」


「ふうん? ……へ!!?」


「今更かよ!!? 勝者の戦利品なんだぞ、お前!!」


「あたしの意思は!!?」


「そんなの…無視だよ。

だって第一…、

その結果に納得する僕達じゃないし。

僕達の存在を無視して、横から出てきた男と強制的決着なんて、矜持に賭けて認めるわけには行かないんだよ。例え相手が誰であれ。

一度は…完敗かなって思いも過ぎったけど、目の前で見せつけた櫂が悪い。ね、煌?」


「……おう。俺達じゃなくあいつに、本気見せて闘う櫂が悪い」


「え? え?」


「覚悟してね、芹霞。焚きつけられて、僕…闘争欲に火がついちゃった」

その可愛らしい微笑みは何処までも妖しく――


「同感。…逃がさねえって言ったろ?」

そのあどけない笑いは、何処までも獰猛で――



櫂を彷彿させた。



桜ちゃんに助けを求めたけれど。


「ご愁傷様です」


ぺこり。


綺麗に頭を下げられた。



目の前では男2人が闘っていて。


久遠を応援している、旭と蓮と司狼は異様に盛り上がっていて。


櫂を応援している玲くんと煌と桜ちゃんは、不敵に笑っていて。



何の力も持たない平々凡々のあたしは。

男の闘いを見守るしかできない無力な女は。


2人が共に、負傷しないことを祈るばかり。

少しでも仲良くなって貰いたいと願うばかり。


あたしは――

平和好きな唯の凡人で。


大好きな人達同士、仲良くなって欲しい。


同時に――

何処までも自己中心的な女は、切に願う。


あたしの世界が、いつまでも平和でありますように。


あたしの人生が、永久に安泰でありますように。



多分――


無理だろうなと…


思いながら――。




< 1,373 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop