あひるの仔に天使の羽根を
「…櫂の位置に、僕が居たかったな…」
玲くんの呟きは小さすぎて聞き取れなかった。
「お前、本当にいい身分だよな」
煌がぶすっとした顔で言った。
「へ? 庶民が?」
「誰が、肩書きを言ってるんだよ!!!
お前を取り合ってるんだぞ、あいつら」
「ふうん? ……へ!!?」
「今更かよ!!? 勝者の戦利品なんだぞ、お前!!」
「あたしの意思は!!?」
「そんなの…無視だよ。
だって第一…、
その結果に納得する僕達じゃないし。
僕達の存在を無視して、横から出てきた男と強制的決着なんて、矜持に賭けて認めるわけには行かないんだよ。例え相手が誰であれ。
一度は…完敗かなって思いも過ぎったけど、目の前で見せつけた櫂が悪い。ね、煌?」
「……おう。俺達じゃなくあいつに、本気見せて闘う櫂が悪い」
「え? え?」
「覚悟してね、芹霞。焚きつけられて、僕…闘争欲に火がついちゃった」
その可愛らしい微笑みは何処までも妖しく――
「同感。…逃がさねえって言ったろ?」
そのあどけない笑いは、何処までも獰猛で――
櫂を彷彿させた。
桜ちゃんに助けを求めたけれど。
「ご愁傷様です」
ぺこり。
綺麗に頭を下げられた。
目の前では男2人が闘っていて。
久遠を応援している、旭と蓮と司狼は異様に盛り上がっていて。
櫂を応援している玲くんと煌と桜ちゃんは、不敵に笑っていて。
何の力も持たない平々凡々のあたしは。
男の闘いを見守るしかできない無力な女は。
2人が共に、負傷しないことを祈るばかり。
少しでも仲良くなって貰いたいと願うばかり。
あたしは――
平和好きな唯の凡人で。
大好きな人達同士、仲良くなって欲しい。
同時に――
何処までも自己中心的な女は、切に願う。
あたしの世界が、いつまでも平和でありますように。
あたしの人生が、永久に安泰でありますように。
多分――
無理だろうなと…
思いながら――。