あひるの仔に天使の羽根を
「師匠か? 師匠が毎日、お医者さんごっこしちゃったのか~ッ!!!?」
由香ちゃんの親父臭い戯れ言に、沢山の厳しい視線が一斉に玲くんに向いたのが判った。
「ち、違うからッ!!! 僕はそんなこと、まだしてないからッ!!!」
ああ、玲くんでもあんなに焦ることあるんだ。
あたしは人事のようにそう思った。
「……玲~ッ!!! "まだ"って何だよ、このクソエロドクター!!」
「こ、煌……完全にお前の誤解だからッ!!!」
「抜け駆けはさせねえって、どの口が言ったんだよ、ああ~!!?」
煌が、上司である玲くん相手にヤクザ化した。
短気な煌がキレかかっているらしい。
「……あっちゃあ~、如月…相当ストレス溜まってるねえ~。見るからに堪え性なさそうだもんな~」
真上から、哀れんだような由香ちゃんの溜息が降ってきた。
「折角の神崎の退院なのに、なんか空気がギスギスしてるから、和ましてあげようと思ったのにな~」
由香ちゃん、そんな和ませ方、要らないから。
「遠坂、芹霞を離せ」
櫂の声に、由香ちゃんはびくっと体を震わすと、素直にあたしから遠のき、あたしは櫂に引き寄せられた。
病室でも思っていたけれど、多分由香ちゃんは櫂が苦手だ。
そして櫂も、由香ちゃんが苦手だと思う。
表だってツンケンするわけではないけれど、生理的に合わない相性なのかもしれない。
元気でぶっ飛んだコスプレ娘と、理性的で理知的な財閥の御曹司。
本能の赴くままの"動"の由香ちゃんと、自制心にて感情を抑える"静"の櫂。
そう考えれば、煌は由香ちゃん側で、玲くんは櫂側にいる。
桜ちゃんは櫂側で、あたしは……由香ちゃん側だろうか。
こういう線引きをしていいのかは判らないけれど。
そんなことを考えている間、
「最後の最後まで病室で騒ぐ気か、てめえはガキか、コラッッ!!?!
てめえ腐れ蜜柑の分際で、誰に手を上げてんだ、ああ~!!?」
キレた桜ちゃんが、煌の何処かを殴ったような……湿った音がした。