あひるの仔に天使の羽根を


――芹霞ちゃあああん。



俺の中の、子供が哭いている。


芹霞が欲しいと哭いている。


今――

言葉に出したい。


はっきり伝えたい。


――約束します、父上。


約束など……例え破棄しても。


「俺は…――」


覚悟を決めて口を開いた時、突然芹霞は立ち上がった。



「……櫂、行こう」



何もなかったようないつもの笑顔で。


「……え?」


俺は――


思わず顔を顰めて芹霞を見上げる。


「皆心配してるよ、行こ?」


昔と同じく、手を差し伸べられる。


絶対的優位性は芹霞にあって。


俺は躊躇(ためら)った。


その手を取ったら、なかったことにされそうで。


それだけはしたくなくて。


「櫂。今のこと、

――忘れようね」


そう――

芹霞が言った。


はっきりとした口調で。



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