あひるの仔に天使の羽根を


「櫂と芹霞なら大丈夫だ」


明らかに大丈夫ではなさそうな顔で玲が言う。


怒っているような、悲しんでいるような。


元々玲は、感情の表現は繊細で、笑顔の仮面の下に心情を覆い隠す男だ。

俺のような単純な作りはしてねえ。


だからこそ、玲の拷問時のえげつねえ顔を初めて見た時は、震えがくる程その豹変ぶりに驚愕して。


笑い続けるか、えげつねえかの両極端を行き来していた玲が、他の感情を素直に顔に浮かべるようになったのは最近。


至って人間臭い……時折見せる"男"の顔は。


その原因考えれば、俺でも判る。


芹霞――。


俺だって、同じ女に心底惚れているから。


その玲が不機嫌なら、いない2人の様子に想像ついちまうだろ?


舌打ちして踵を返す俺に、玲が何かを言って制したようだが、俺は止まらねえ。


生憎俺は、玲みたいに我慢強くねえし、短気だし。


何より、愚鈍な俺は、気づいた時に迅速に動かなきゃ、後悔する事態に陥るから――。
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