あひるの仔に天使の羽根を
想像――
つかなかったわけじゃなかったんだ。
だからこそ、居ても立ってもいられねえ心境で。
もし櫂が。
いつもように悠然と、いつものような完璧主義で、いつものように欲しい物を積極的に奪いにいけば、俺なんて目じゃねえ。
俺と櫂は次元が違いすぎる。
その櫂が、本気で芹霞を取りにいかねえから、俺も玲も――引き返すことの出来ねえ処まできちまっているんだ。
櫂はまだ動かねえ。
そう――思っていたのは何故のことなのか。
何をもって、俺は驕り昂ぶっていたのか。
俺と芹霞が持ったあの濃密な時間を、櫂は作ろうとしねえなんて、何故高を括ってしまってたのか。
今思えば、俺はやはり愚鈍で。
俺が2人を探していた時――
桜が神妙な顔で佇んでいた。
動けない。
そんな表現の方が正しかったのかもしれねえ。
あいつには珍しい程狼狽えて、珍しい程――悲しげで。
「桜?」
俺の声にもすぐ反応出来なかったくらいだ。
思わず俺でさえ、息が詰まるようなその悲壮な表情に目を細めた時、
「……来るな」
俺に気づいた桜が、低い声で言い放った。