あひるの仔に天使の羽根を
どこから見ても男にしか見えねえその格好で。
痛々しいくらい悲痛なその眼差しは、俺をしっかりと見据えて。
中性的に整った顔立ちをしているくせに、しっかりとした男の表情で。
「引き返せ」
だから――
桜のその先に、2人が居るだろうことは容易に想像ついた。
「どうしてだ?」
俺も相当、沈痛な顔でもしていたのか。
平生無表情の桜の顔が、微妙に揺れ動く。
桜はそれでも俺に言い放つ。
「後悔しないのなら、
――行けばいい」
桜は、身体をどける。
――後悔しないのなら。
まさか、桜――
「僕には関係ないことだ」
桜の後ろ姿を見ながら、俺は思う。
漠然とだけれど。
まさか、桜、お前も――。
考え過ぎかも知れねえ。
桜があんな表情をしていたのも。
合理主義の桜が"後悔"なんて言葉を使ったのも。
そして――
"素"の桜が、初めて自分を呼称したのが"僕"……あいつが卑下する男のものであっても。
だから――
桜でさえ"男"に揺れ動くその原因が、俺にとって如何に惨憺たるものであるかなど、深く考えていなかったんだ。