あひるの仔に天使の羽根を
 


熱が急激に引いた感じで。


余韻なんていうものはなく。


ただひたすらに。


時間が巻き戻り、なかったことになればいいのにと願った。


そうすればあたしは――


櫂と深く口唇をを合わせたことが、

櫂と深く抱き合ったことが、

気持ちよかったなんて、

もっとそうしていたかったなんて、

思ったことを後悔なんてしなくてすんだのに。


あたしが一番近くに櫂を感じて、

櫂が一番近くにあたしを感じる。


それはまるで8年前の……それ以上の密な関係になったようで、本当にあたしは涙が出そうになるくらい嬉しかったのに。


――なあ……。
誰とのが良かった?


まさに――急転直下。


あくまで櫂の気紛れで。

あくまで櫂の誇りのために。


あたしはそこいらの女と同じ扱いをされたのだと、

幼馴染を利用されたのだと、

思ってしまえばもう櫂の言葉なんか聞こえていなくて。


ただ願わくば。


櫂とあたしの仲が永遠に、8年前みたいにずっと一緒でいられるように。

ずっとずっと一緒で居られるように。


――誰が居るんだ、お前の中に。


どくん。


あたしの中の陽斗が悲鳴を上げた。


< 156 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop