あひるの仔に天使の羽根を
 


それ以上は聞くことを拒めと訴えた。


――"刹那"って誰だ?


聞き覚えないはずのその名前に、

あたしは心ならずも意識を持っていかれそうになる。


――り。


あたしが、崩れそうになる。


――せり。


そんなあたしを救ってくれたのは煌で。


だけど煌は何かを怒っていて。


それが判らないあたしに苛ついてキスをした。


ただ一方的に、強引に――。


あたしって――何?


苛々の捌け口?

からかいやすい相手?

簡単に唇を許す安っぽい女?

香水女と一緒のレベル?


怒りよりまず悲しくて。


女であるということが悔やまれて。


煌も櫂ももう――

男というものが何を考えているか判らなくなった。


――真剣に聞いて欲しい。


あたしはいつだって真剣に接しているつもり。

真剣な心で喧嘩してきたじゃないか。

煌は、それすら気づいていなかったんだろうか。


益々あたしは気落ちした。


子育てに失敗して、裏切られた気分。


ぽっかりと胸に穴が開いた。





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