あひるの仔に天使の羽根を

憂いの含んだ切れ長の目。


じっとあたしを見つめるその目から、あたしは視線を外した。


「玲くん、あたし方向音痴だよ?」


笑いながら視線を戻した鳶色の瞳は訝しげだったが、あたしの言葉に、いつもの如く優しげににっこりと微笑んだ。


「迷った時は、君が道標になって貰う方が安全だ。大丈夫。例え何があっても僕達が護るから」


「おいおい、本当にいいのかよ!?」


視界を遮る橙色の存在に、あたしはまたすっと視線を外した。


駄目だ。


櫂も煌もよく見れない。


突き刺すような眼差しを向けられているのが判る。


怒らすようなことをしているのは判る。


どうしよう?


何とかしなくちゃと思うけれど、体が反射的に拒むんだ。


どうしよう?


隠れたい。


もう少し時間が欲しい。


それまでには何とかするから。


笑えるように頑張るから。


あたしに時間が欲しい。


それに気づいたのか、玲くんがにっこり微笑んであたしの手を取り、その横に引き寄せた。


「玲、お前ッ!!!」


煌の荒げられた声。


途端に鳶色の目が冷たく、すっと細められた。


「非常事態だ。

僕をどうこういう前に、状況を弁(わきま)えず、そういう原因を作った自分を恨むんだな。

いいな――櫂も」


玲くんは何を知っているのだろうか。


それに対して、反論の言葉はどこからもあがってこなかった。




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