あひるの仔に天使の羽根を


もうそれは圧巻と言うべきお屋敷だった。


豪奢でありながら繊細な模様と曲線の調度。


そしてガラス。


色鮮やかなガラス・タイルで、至る所目一杯デコレーションされている。


決して華美な色合いではないのに、豪華絢爛に思えてしまう色調。


世界史の授業で見たことがあるこれは、アールヌーボー調と呼ばれるものによく似ているけれど、更にそこにあるのは教会のような荘厳さ。


天井には放射状に拡がる、嵌め殺しのステンドグラス。


壁に掛けられたのは、女性……聖母マリアの絵画ばかり。


眩暈がする。


「スペインのモデルニスモ様式ですか」


櫂が先頭の荏原さんに言った。


「さすがは紫堂様。よくご存知で」


「玲くん、モデル……って?」


「ん? バルセロナのカタルーニャ地方で19世紀末から20世紀初頭にかけて流行した芸術様式でね、優美な曲線と華やかな装飾がフランスのアールヌーボーに似ていることから、カタルーニャ版アールヌーボーとも言われている。

宗教的意味合いが強いね」


難なく答えられる玲くんは、やはりただの引きこもりではなかったらしい。


現役高校生、煌も由香ちゃんも答えられないだろう。


堂々と振舞う櫂は、そのフリフリブラウスと共に、豪奢な建築にも負けずにいる。


玲くんなんか本当に令嬢で。


あたしは――異質だ。


凄く――櫂との距離を感じてしまう。


櫂は高みに上がるに相応しい人物なんだと今更ながらに実感する。


紫堂というものは、やっぱり庶民側ではないんだ。


「……はあ」


そんな溜息に気づいたのか、荏原さんは、


「少しお休みになりますか?」


というか、あたしもその立食パーティとやらに出るんだろうか。


由香ちゃんなんかとても乗り気で。


煌も桜ちゃんも、護衛役として付いていくんだろうし、


「部屋で休めるのなら……」


との呟きを、かき消してしまったのは櫂で。


「お前も連れて行く」


そうだよね、心配性の櫂だもの。


あたし1人は残さないよね。




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