あひるの仔に天使の羽根を
「だけど人様に見せれるような服装では……」
海水やら森やら抜けてきたのだから、白地のワンピースがカラフルな色合いになっている。それも決して綺麗な色合いではない。
緋狭姉からのサプライズな贈り物を結構気に入っていたから、ここまで染みがついてしまっては、次がないと思うと酷く悲しくなる。
あたし程ではないにしても、皆の服装だって正装とは言い難い。
こんな服装で行けば、いい恥曝しになる。
仮にも紫堂の関係者だというのに。
「服装はご心配なさらないで下さい。滞在中、お部屋にありますお洋服は、ご自由にお使い下さいませ」
何と気前がいい、荏原さん……もとい各務家。
全ての着替えが海に流されているから、それはとっても嬉しい申し出で。
この家に連泊することは、事前の決定事項だったらしい。
「じゃあ、とりあえず皆着替えようか」
玲くんの言葉に、一同頷いた。
「あの……」
少しだけ荏原さんは困った顔をして声を出した。
「女性と男性は、お泊りの棟を分けさせていただきたいのです。これは、この都市では、夜、女性と男性は閨を共にしてはいけない決まりがございまして。その……そういう男女の営みは禁止されているのでございまして」
男女の営み?
鈍いあたしでも、意味する処は自ずと思い至る。
「な、なな、ないないないッ!!!」
あたしが皆とどうにかなるとでも思っているのか。
慌てたあたしだが、荏原さんは更に困った顔をする。
「親子だろうと家族だろうと、夜は離れて暮らすのが決まりなので。一緒にいることが判れば、審判が下されまして・・・・・・」
「審判?」
櫂が目を細めた。
「はい。"約束の地(カナン)"には"断罪の執行人"と呼ばれる者達が存在します。それは"神格領域(ハリス)"と呼ばれる、神聖視されるこの地でも例外ではなく。悪の芽は早くから摘み取れというのが基本主義なので」
申し訳なさそうに項垂れる荏原さん。
「判ったわ。それがルールなら従いましょ、ね、由香ちゃん」
そうすると、あたし達2人だけが別棟か。