あひるの仔に天使の羽根を
だからあたしは更に疑念を持って、服を丹念に眺める由香ちゃんを残し、もう1つの寝室に行く。
そこには玲くんがいて、クローゼットやローチェストの引き出しを開けたまま、腕を組んで考え込んでいた。
「あ、芹霞」
にっこりと微笑むけれど、ベッドの上に置かれた服を見て、
「やっぱり……」
あたしは眉を顰めた。
思ってることは――一緒なのか。
玲くんは鬘を取ってベッドに投げ捨てた。
いつもの鳶色のさらさらとした髪が現れると、無造作に掻き上げた。
「ようやく玲くんに戻ったね」
嬉しくなって笑ったら、玲くんは唇に人差し指をあてて、
「"くん"付けは駄目。何処で誰が聞いているから判らないから」
それはごもっともだけれども、それなら何で鬘をとったのだろう。
「君の前で、女を気取ってたくないからね」
男を見せる玲くんは、やはり腑に落ちない。
「というわけで。私のことは、呼び捨てでお願いね」
突然、短髪の美女にとびきりの笑顔で微笑まれた。
やばい。
やっぱりイケない世界にいってしまいそうだ。
「ねえ、玲く……ううう…玲」
「ふふふ。芹霞、顔真っ赤」
「からかわないでよ、玲く……うっ、ねえ、玲さんじゃ駄目?」
「駄目。櫂も煌も呼び捨てでしょ。僕のことも呼び捨てにして?」
玲くん、"僕"といっているんですけれど。
「僕だけ仲間外れにしないで?」
笑いを消した…悲しげにも思える鳶色の瞳。
玲くんは――
そんな風に思っていたのか。