あひるの仔に天使の羽根を

・警戒 櫂side

 櫂Side
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芹霞と満足な話が出来ぬまま、部屋を違えてしまった。


――ふふふ。私を忘れられてしまいましたね。


玲が、女のふりをしたのは、

あいつも…気づいたのだろう。


この"神格領域(ハリス)"も、性別に対しては差別めいた区分けがなされている。


――女性と男性に。


荏原という執事は、普通にそう言ったが、

来客である俺を目の前にして、

"女性"を先に用いたことに意図的なものを感じた。


"混沌(カオス)"における旭といい

この荏原といい、"女性"を重視し過ぎている。


"男性"を付属(オプション)扱いにする態度に、俺は疑問を抱いた。


この建物に飾られている絵画は、著名画家が描いた聖母マリア…女性像ばかりで、教会や骨董蒐集者(コレクター)が持ち得る男性像の…例えばイエス・キリストや聖人像が描かれた絵画は1つもない。


――審判が下されまして。


この地に蔓延る"宗教"が、どの程度にどういう風に侵蝕しているのかが判らない。


――"断罪の執行人"と呼ばれる者達が存在します。


途端に思い出したのは、船で俺達を襲った刺客達。


十字架をつけた神父と修道女。


神の名の元に殺戮が許されているのか。

俺達は何の罪を犯したというのだろうか。


『きょうしんしゃ』


旭がそう呼んだ者達との関わり合いもよく判らない。


更に、荏原という執事。


船を停泊させて訪問したわけではない俺達を、何故待ち構えて出迎えられた?


なぜ暗闇に訪れた俺達を、紫堂関係者だと断言できた?


何故、何処から到着したのかと聞いてこない?


誘導的に詰問しようにも、荏原は飄々として話をそらし、俺達を部屋に案内して消えてしまう。




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