あひるの仔に天使の羽根を
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通された広間もやはり一面ステンド硝子で覆われており、異国の教会の中に居る錯覚さえ覚える。

峻厳な空気を持ちながら、それでも格式高い調度で自己主張をする空間。


装飾品はどれも世界的に名だたるものであることは判る。


いくら俗世から遠ざかっているとはいえ、各務たるもの、模造品(レプリカ)蒐集などという無粋な真似はするまい。


各務翁が全ての財産をつぎ込んで作ったという"約束の地(カナン)"。


どれだけの金を注ぎ込んだんだ。


閉塞的空間における骨董品は、ただの自己満足にしかすぎない。


それにしても随分と盛況だ。


夜通しパーティーでもするつもりなのか。


俺が広間に入った途端、シャンパングラス片手にざわめいていた先客は皆口を閉ざし、無言で俺達を迎え入れる。


賞賛か。


畏怖か。


若干緊張伴うような眼差しにも慣れた今、特別どうこう思いを馳せることはないが、俺の後に着く煌や桜は居心地悪そうだ。


音が途絶えたのは一瞬のことで、そして俺の周りにはやたらと人が集まった。


いつもの如く。


取り繕ったような笑みと、噎せ返るような香水の匂い。


何度体感しても、これだけは慣れない。


虚飾。欲望。下心。


己の在る地位を確認したいがために、高めるためだけに、他人に近寄るハイエナ共。


やり手ではあるが悪い噂が尽きぬ……そんな狡猾な者達が集った宴に、だからこそ紫堂も…俺も招かれているのかと思えば、何だか無性にやりきれない思いもする。


それでも俺だって、そうやって世俗の垢に塗れながら、紫堂を拡大させている。


綺麗事ばかりは言ってられない。


理想論だけではやっていけない。


それは俺だけではなく、俺に従う……玲や煌や桜だって同じ事。


だから紫堂を背負って仕事をする俺達の姿を、極力芹霞に見せまいとしていたのだけれど。


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