あひるの仔に天使の羽根を
この場にいる者達は、どれも全国的に著名な人物ばかりだった。
俺に話しかける者達を取り込めば、今後の勢力拡大を狙う紫堂の有利に動くことは間違いないだろうが、何だかそれが憚(はばか)れた。
目の光が――気に食わない。
俺が真っ先に潰したくなる、物欲に満ちた目の光。
俺も存外に貪欲だが、多少の慈悲の心はあるつもりだ。
だけど、ここの者達にはそれが見えない。
それはまだ直感にしか過ぎないけれど。
俺は、心中する気はない。
確かに、この場にいる者達だけで日本はどうとでも動く。
ただし、元老院――東京を牛耳る集団が動かない限り。
2ヶ月前のことがあり、そして元老院に従う五皇が1人である氷皇が元老院に昇格したからというもの、元老院は特別目立つ動きをしてはいなかった。
それは恐らく氷皇と、同じ五皇である紅皇――緋狭さんの牽制もあるだろうが、それ故に膠着時のような妙な不気味さを感じている。
権力というものは、いつ何処でどんな牙を剥くか判らない。
どんな罠が仕掛けられているのか判らない。
だから、常に気を張って堂々としていなければならない。
そんな時に覚える直感程、頼れるものはなく。
その時――ざわめいた。
視線を向ければ、俺達が通ってきた大扉から現れたのは芹霞達で。
「……やべえよな」
煌の舌打ちが聞こえる。
美しい――
そのひと言に尽きた。
思わず惚けてしまう程、
着飾った芹霞は綺麗だった。