あひるの仔に天使の羽根を
「あたし、嬉しかったよ?
櫂があたしの中にいてくれて」
例えあの感覚の元が、櫂の力による擬似的なものだったとしても、だけどあたしはちゃんと"生きて"いた。
臓器という形があるとかないとか、そんなのは関係ない。
あたしは、ちゃんと"鼓動"を感じていたんだ。
それは嘘じゃない。
今は櫂の力に頼らなくてもいいけれど、それは櫂が用済みになったとか、櫂を必要としていないとかじゃない。
櫂のは紛い物で、陽斗のは本物だとか思っているわけではない。
今まで、あたしの中にいたのが櫂でよかったと思う。
ねえ、櫂。
あたしから居なくなっても、終わる絆ではないでしょう。
あたしにとって、櫂は今でも永遠――以上だから。
「あたし、ちゃんと感じていたよ?
あたしの中にいる、どくどく脈打つ櫂を、全身で感じていた。
あたしを壊すくらい、櫂は本当に大きく動き続けてくれてたの。だから――」
だから、そんなに寂しそうにしないで?
と、言おうとした処で、突然げほげほと派手に咽(む)せる音に遮られた。
見れば隣に立つ玲くんが、口に手を当て咳き込んでいる。
「玲くん、大丈夫!?」
無理が祟って体調でも悪くなったのではないかと、櫂と同じ位の高身長の端麗な顔を下から覗き込んでみると、
「ご、ごめん、芹霞。今はちょっと僕を見ないで」
玲くんは顔に手をあて、あたしからくるりと背を向けてしまった。
「え?」
玲くんの両耳は赤く、まだげほげほ咽せている。