あひるの仔に天使の羽根を

・珠玉 玲side

 玲Side
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お姫様のご機嫌は直らない。


滅多に見れない程焦りまくる櫂を見ていれば、思わず噴き出したくなる気持ちになるけれど、何故に芹霞が怒り出すのか、その心の動きを考えてみれば、それは決して愉快な類のものではない。


女と見れば悉く無視するか、冷視を貫く氷の御曹司が、少なくとも芹霞のいるこの場所で、


――薄倖の美少女、か。


芹霞以外の女性の存在を認めたのだから。


しかも皆を驚かせようと精一杯お洒落して綺麗に着飾った芹霞を褒めずに、自ずから出たのは他人に向けられた"美少女"という言葉で。

芹霞は完全に妬いたのだ。


櫂は――


確かにオトメゴコロというものに疎いのかも知れない。


それは常に追いかける一方であった立場上、まさか芹霞から返る心があるとは予想していなかったからに違いなく。


それでも僕からしてみれば、芹霞の登場で惚けたように見ていた櫂の眼差しは、明らかに眩しいものを見ているもので。


言葉に出さないだけで、判りやすいほど体現していて。


だから僕は心裏腹に、女として意図的に振るまい、芹霞の光を消すのに躍起になった。


心で芹霞に謝りながら。


芹霞は元々自分の容姿に鈍感だ。


だからこそ飾らない芹霞はダイヤの原石で、それを感じ取れる男達も稀少ですんできた。その数が例え増えたとしても、芹霞が自覚しない内に、さっさと櫂と煌が恋敵を蹴散らしてきていたのだし。


そう、芹霞を美しいと感じながらも、そのように扱ってこなかったのは、男を遠ざけるために必要なことで。


それが芹霞が意識的に着飾れば、どれだけの輝きを放つのかは未知数だ。


はっきりいって、僕でさえ怖い。


傍から飛び立ってしまうようで。


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