あひるの仔に天使の羽根を
僕の中では芹霞はいつでも可憐で美しい女性で。


判っていながら、僕は自らの嫉妬心から芹霞のオトメゴコロを踏み躙り、芹霞の顔を曇らせた。


男の僕に負けたと、君の矜持を傷つけてしまったんだね。


僕なんて所詮、儚い虚飾の存在だ。


綺麗な君はいつまでも絶対的で永遠で。


そんな珠玉の君を他には見せたくないんだ。


僕だけが知っていたいんだ。


闇に隠しておきたい僕の真情は、きっと芹霞には伝わらない。


そんな僕をすり抜けて、ちらちらと芹霞を盗み見る櫂や煌の眼差しは、完全に甘く、熱く潤んだ"男"のもので。



嫌だ。

そんな目で見るな。



"男"として芹霞を見ることさえ許されぬ僕は、必死に暴れる"僕"を押し殺し、あくまで女性として微笑む……この辛さ。


――父上。どうか僕を次期当主に。



もし8年前に、櫂が僕の前に現れねば

今頃僕が櫂の立ち位置だった。



そうしたら今、僕はこんな格好をせず、紫堂を背負った"男"の身なりで、芹霞の隣に堂々と立てたかもしれない。


僕が櫂のようになれるなど儚い幻想だと判ってはいるけれど…そんな夢みたいな複雑な心さえ抱えているなど何も判っていないだろうに、芹霞に妬かれるその羨ましくも差別めいた待遇に、ぎりぎりと心臓が締め付けられて。


だけど――


何が出るか判らない未知なる地で、芹霞を護るには"女"であるのが得策なのだと、僕の直感が告げるから。


決して――

櫂はあの各務須臾という少女に魅せられているわけではないと

見慣れぬ存在がどんな人物か、走査しているのに過ぎないと

芹霞に教えて安心させてあげる程、僕は出来た人間でもなければお人好しでもない。


それ処か言いたい。


あの少女は櫂に一目惚れをしただろうと。


僕は――


元来優しい気性ではない。


芹霞は僕を褒め称えてくれるけれど、いつでも心はどろどろとした欲望が渦巻いて、計算高くて。そして小心者で。


この期に乗じて、僕を"男"として求められたいと呼称まで強いて。

特異な環境だからと押し付けて、2人で居る時は女を棄てて。




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