あひるの仔に天使の羽根を
扉から大笑いしながら入ってきたのは少年で。
白い正装姿であるものの、服装は乱れてシャツもはだけ、
片手にはシャンパンの瓶を持ち、
完全に泥酔状態の赤ら顔。
ふさふさと揺れる、ウェーブがかった少し長めの髪の色が、
――ぎゃはははは。
今は居ない道化師を彷彿させる。
「み~なさ~ん、ごっきげんよおおお。ご紹介いっただきました~、長男で~す」
陽気と言うより馬鹿にしたような物言いに、場の空気はすぐに冷え込んだ。
大げさすぎる動作に惑わされ、遠目で見る顔の造りはよく観察できないものの、悪くはないはずだ。
まして、あの清楚な須臾の兄であるならば。
かなり……整っているのではないだろうか。
「何だ、あれ……」
褐色の瞳を向けた煌が、眉間に深い皺をたてた。
「あんなのが、各務翁の長男?」
煌の問いに櫂が否定した。
「いや。年齢的に孫だろう。俺達より少し上…玲くらいの歳か、それ以上か? どちらにしろ、この地において、各務家の当主は各務翁から代替わりしたんだろうな。今日のこのパーティは、俺と同じ立場の長男のお披露目を兼ねてたんじゃないか?
……不幸にも」
櫂は口許だけで嗤った。
つまりは――次期当主、か。
高笑いし、所構わず誰もに絡みつく、酒癖悪そうなあれが。
次期当主のお披露目、というものは僕にとってあまり意味ないもので。
僕の時は泣き叫ぶ櫂が潰し、
櫂の時は気狂った僕の母が潰し。
そして各務の長男は、己の愚行で潰しているのか。