あひるの仔に天使の羽根を
「兄様!!?」
須臾が迷惑を被った客に謝りながら、男の肩を抱く処をみれば確かに兄妹らしく、傍目では出来た妹が放蕩兄を介護する図だ。
男の体はふらふらしていて、妹にさえキスしようとする。
見ていられない。
「……?」
そんな2人を見つめる櫂の眼光が鋭く。
何かを――感じたのか?
そして芹霞も――
目は彼に向けたまま、何かを考え込んでいるようで。
一体何に対して――?
「この、馬鹿者めがッ!!!」
突然怒号をあげて会場に飛び込んできたのは、神経質そうな厳めしい顔をした男で。
宥めるように荏原も追いかけてきた。
「あ~れ~、叔父さん、怖い顔してどおしたんれすか~? あはははは」
「柾(まさき)叔父様、兄様に手荒なことはなさらないでッ!!!」
「これでもこんな面汚しを次期当主に据えるつもりなのかッ!!?
荏原、樒(しきみ)を呼んでこいッ!!!」
「ま、柾様、落ち着かれてくださいませ。ご当主は今……」
今度は若い少年が飛び込んできた。
「兄さん、僕と一緒にここからでよう、ね?」
なんだ、この――茶番劇は。
僕は呆気にとられてしまった。
僕だけではない、恐らく誰もが思ったことだろう。
涙を浮かべればいいのか。
怒ればいいのか。
一体、どんな反応を僕達に求めているというのか。
騒がしく入ってきたと思えば、騒がしく退場して。
残るのは、呆然とした観客だけ。
そんな時だった。